18.お前はわたしに死ねと言ってるの?

母の背中から聞こえてきた声です。

わたしは母を殺したくない。

じゃあ、お前が死になさい。

無言のメッセージを長年、わたしは受け取ってきました。

わたしも死にたくないよ。
お母さんはお母さんのままでいい。
だけど、少しだけわたしの前で立ち止まって。

立ち止まって何をするの?

何もしなくていい。
ただ、関心を寄せて。

そんなのつまらない。
わたしの趣味に付き合ってくれたら、時間をあげる。
わたしの講義を拝聴してくれたら、時間をあげる。

ただ、今日は何があった?どうだった?って、聞いてくれない?

だって、そんなの興味ないよ。
好きにしていいって、言ってるでしょう。

それはわたしに死ねっていってるんだよ。
お前なんかいらないっていってるんだよ。
全部丸ごとでなくていいから、違うところがあって、違う感じ方があっていいから、少しだけ寄り添って。
相談に乗って。

時間がないから駄目よ。わたしは忙しいの。
だって周り中問題だらけなんだもの。
あれもこれも、片付けなくっちゃいけないんだから。
合間には遊びたいし。

じゃあわたしのための時間はどこにあるの?

お前が他人に迷惑をかけたら、なんとかしなくちゃいけないわね。

でも、わたしはそんなことしたくないよ!

じゃあ、おとなしく自分のことをしていなさい。
わたしはもう、手一杯なんだから。

大変なのはわかってるよ。でもわたしも大変なんだよ?

それはお前の問題だから、自分でなんとかしなさい。

……異なる人間が、ただ相手がいるだけで嬉しいと思えることを、母は知らなかったのだと思います。
厄介者の亭主、問題児の兄、たくさんの生徒たち、趣味を共有する仲間や追随者。
ただその人がいるだけで嬉しいと思える相手を、生涯見つけられなかったのではないかと。
わたしは彼女を殺したくなく、わたしも殺されたくなかった。

友だちをつくるのは、趣味があうからとか、相性がいいからとかだけではなくて、相手が不思議な他人だから仲良くなりたいのです。
知らない世界と、知らない感性がわたしを惹きつけるのです。

最後まで、母には通じなかったけど。

そしてわたし自身も、最後まで母のどこかを否定していたけど。

それでも関係は作れたはずだと、最後まで、望んでいました。

でも、彼女はそういう在り方をとうとう知らずに逝きました。

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