あれから10年 PTSD

今は、足元に確かな地面があるのがわかる。

最近大きなチャレンジをして、見事に失敗。
失敗したけど、不思議なことにそのあと怖くならなかった。
世界や人の手が自分を支えてくれているとその時もそのあとも感じていた。
そこは綱渡りのロープではなく、断崖絶壁でもなかった。
もしかしたら親への信頼ってこんな感じなんだろうか? 綿雲みたいに柔らかく何も見えないけど何かが確かにある感じ。

10年前の春、母の死をきっかけに発症したPTSD。
当時は夜も1,2時間しか眠れず、気が付くとフラッシュバックや回想に飲み込まれ、いまがいつで、ここがどこかすぐにわからなくなっていた。
それが終わったことだと頭は納得しているのに、よみがえる感覚に翻弄されて気が狂いそうだった。
世間が平和に見えるのが不思議でならず、そこにいることがどうしても信じられない。
その記憶の中にあっては、足元にたしかな地面を感じているように見える人々が信じられなく、平穏な世界があることが逆に苦しい。魂の暗夜。鬱の4年。なぜわたしだけが。

でも抜けてみてわかること。
…わたしはその時ようやく安全だと感じることができたんだね。
本当に命がかかっている時、渦中にはPTSDは出てこない。
そんなこと意識したら今をまず生き延びることができない。
何もなかったことにして、大丈夫なふりをしてまず生き延びる、それも素晴らしい知恵だったんだな。
頭ではわかってなかったけど、どこかで安全だと感じたから、一気に症状が出てきたんだね。
症状がどん底なんじゃない。どん底はその前。それはもう終わったことだったんだ。

病気になる前の、一見順調な人生の息苦しさ。
小さいころからずっと高い断崖の端で、一歩間違えたら奈落の底だと感じながら生きてきた。
他の人は皆平坦な地面の上を歩いている。わたしだけが綱渡り。
病気の中で、あふれだした記憶のおかげで、それぞれの瞬間と再び出会いなおして、そうしたら…。

あれ?
わたしも今、地面の上を歩いてる?
綱渡りのロープのようなときにも、ちゃんと下のほうにセーフティネット張られてる?
でもって病気の前の人生よりもはるかに広い大地じゃない?
しかもどんどん広がっていきそうじゃない?

ただ病気が治っただけではなくて、その先にも足跡がついていて、後ろを振り返ってみたらなんだかずいぶん遠くまできたような気がした。

人って変わるもんなんだな~。しかも現在進行形で。
さあ、これからどこに向かおうか。

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