2.人生で一番長い夏

 私が16歳の夏。

 7/31 父親退院。どこにいたのかは覚えていない。退院と同時に大量飲酒。

 8/2 急性アルコール中毒で、再入院。
    ウェルニッケ・コルサコフ症候群 発症。     

(ウェルニッケ脳症の症状には錯乱のほかに、バランスの喪失、眠気、ふらつきやすさ、眼の動きの問題などがあります。眼の問題とは、眼球の麻痺、ものが二重に見える(複視)、また眼球が一方向に素早く動いてからゆっくりと元の位置に戻る(眼振)などです。記憶喪失はしばしば初期に症状が重くなります。

コルサコフ症候群は、重症または再発を繰り返す脳症や、重いアルコールの離脱症状(振戦せん妄)に続いて起こる場合は、そのまま治らなくなります。重症の記憶喪失の多くが興奮とせん妄を伴います。コルサコフ症候群では即時記憶は残りますが、中間記憶や比較的古い出来事(数週間から数カ月前)の記憶が失われます。まれに、はるか昔の記憶が残っていることもあります。慢性のコルサコフ症候群の人は数日前、数カ月前、数年前の出来事も、あるいは数分前の出来事さえも覚えていない)

 16の娘に下の世話をしてほしいお父さんはいますか?

 「お前、誰?」と毎日聞かれながら、父親の下の世話を思春期にした人はいますか?

 「お前と同じぐらいの年でも、看護婦さんはちゃんとできるのに、どうしておまえにはできないの!!」 
 
 歩けない父親はそれでもトイレに行きたがります。ポータブルトイレは、彼にはトイレだと認識できないので、病室の外に行こうとします。そのたびに大騒動です。糞便にまみれて、母親に怒鳴られながら、介助をします。
 
 母がほとんど、病院に付きっ切りなので、いきなり家事を任されます。

 家は、家事一切(食事以外)外注で、今までは、どんなに手伝おうかと言っても、「やらなくていい」と断っていた母から、ある日いきなり、「お前がご飯を作れ」と言われます。

 これは普通の人にはわからないかもしれませんが、アスペルガーなわたしには、けして対応できない異常事態です。

 (例:あいまいなことがわかりにくく,ある男の子はお母さんから「寒いときにはコートを着て行きなさい」と言われても,どれくらいだったら寒いのかがわからず,「何度以下だったら寒いのか決めてください」と言ってきたりしました。適当にしなさいと言われても適当がどういうことなのかがわからないのです。)

 できない、という選択肢はありませんでした。
 だからすべて、やりました。
  
 8/26 父退院。と、同時に精神病院に再入院。
 映画を観ました。普段見ないようなにぎやかな映画。

 『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』
 ラスト付近で、ダースベイダーが、ルーク・スカイウォーカーに向かって言います。

 「I’m your father」
 「NO―!!」

 私はこのシーンを多分一生忘れられない。

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